今回はBangladesh Special Economic Zoneの入居企業であるSinger Bangladesh社のファクトリーダイレクター、Hakan Altinisik氏に、バングラデシュ進出の決断背景、BSEZ選定の理由、そして今後の展望について話を聞きました。

Singer Bangladesh社

1905年創業のバングラデシュを代表する家電メーカー・小売企業。2019年にトルコの大手家電グループであるアルチェリクが株式の57%を取得し、傘下に収めた。現在はSinger・Bekoブランドを含む家電全カテゴリを展開し、直営463店舗・1,000店以上のディーラーショップを全国に持つ。親会社Bekoは57カ国・121子会社・55,000名の従業員を擁し、欧州家電市場における販売台数No.1の地位を確立するグローバルメーカー。

Hakan Altinisik氏

2019年4月よりSinger Bangladeshのファクトリーダイレクターを務める。工場の拡張・技術・生産オペレーションを統括する責任者として、バングラデシュにおける製造拠点の立ち上げから現在の事業拡大フェーズまでを一貫してリード。

テーマ1:なぜバングラデシュへの展開を決めたのか

バングラデシュが候補に上がったとき、最初にどのような印象を持ちましたか?

当社はすでに複数の国で事業を展開しており、グローバルな成長戦略の一環として、あらゆる市場への参入を目指しています。その中でバングラデシュを選んだ理由は、大きく二つあります。

第一に、国内市場としての大きなポテンシャルです。人口2億人を擁し、5,400万世帯以上が存在するバングラデシュは、自社製品の市場浸透率という観点からも、非常に魅力的な市場です。まず国内市場を開拓し、中長期的には輸出ビジネスへと展開していく構想を描いています。

第二に、輸出拠点としての地理的優位性です。家電部品のサプライチェーンという観点から、ベトナム・インド・中国と並び、バングラデシュは非常に有望な位置にあります。実際にすでに、ダッカからルーマニア、トルコへと向けた家電用ハーネスの供給を開始しており、グループ内40工場へのサプライを拡大しています。

人材の意欲・オーナーシップ、そして中国からヨーロッパへと続くサプライルートの中間に位置する地理的条件——これらがバングラデシュを選んだ主な理由です。

特にオーナーシップという点では、バングラデシュの人材には際立った特徴があります。問題が生じた際にも、ただサポートしようとするだけでなく、自ら解決策を持って臨む姿勢が見られます。「何としても実現したい」という強い意志——これこそが他国と比較したときの最大の強みであり、当社がバングラデシュに求めていたものでもあります。

BSEZを知ったきっかけを教えてください。

投資家にとって特に重要な機関として、BIDA(バングラデシュ投資開発庁)とBEZA(バングラデシュ経済特区庁)の二つを挙げたいと思います。この二つの政府機関は、外国投資家に対して、インセンティブの提供、各種認可手続きの効率化、用地探しの支援など、幅広いサポートを行っています。

BEZAの旗艦プロジェクトの一つがBSEZ(バングラデシュ特別経済区)です。政府間(G2G)プロジェクトとして位置付けられているこの開発区を知ったのは、2019年11月にBEZAを通じて最初のアプローチがあったことがきっかけでした。

 

BSEZを初めて訪れたときの印象はいかがでしたか?

2019年の初回訪問時には、JICAによる各種フィージビリティ調査や分析結果を事前に確認しており、G2Gプロジェクトとして将来性があることは認識していました。しかし、当時はまだ開発が始まったばかりで、現場には何もない状態でした。最大の懸念は、「BSEZの開発スケジュールと自社の事業計画が合致するかどうか」という点でした。

転機となったのは2021年の再訪問です。造成工事が本格化し、一日に20立方メートルもの砂を投入しながら急ピッチで開発が進む様子を目の当たりにして、その印象は大きく変わりました。日本人とバングラデシュ人が規律をもって協力し、コミットメントを着実に実行している姿——それがBSEZへの信頼の原点となっています。

テーマ2:なぜBSEZを選んだのか

拠点選定において、最も重視した条件は何でしたか?

2019年4月、私の最初のミッションは用地の確保でした。2年以上にわたる調査の結果、民有地・政府系経済特区・特別経済区を含む約40の候補地を比較検討しました。評価基準は全部で約40項目に上りましたが、特に重視した7項目は以下の通りです。

  1. 労働力へのアクセス
  2. 技術者・エンジニアの確保
  3. 物流インフラ
  4. 電力・ガスの供給
  5. 地球温暖化への対応(バングラデシュは気候変動の影響を受けやすい国であるため)
  6. 洪水対策
  7. 土地の地盤条件

 

これらの条件を総合的に評価した結果、国内市場を主要ターゲットとする当社にとって、事業の重心となる首都ダッカ近郊に位置するBSEZが最適解でした。

インフラ面では、洪水対策としての追加堤防や貯留池、雨水管理設備、国家送電線からの専用変電所に至るまで、BSEZが構築したインフラの充実度は高い評価に値します。そして何より印象的だったのは、インフラ整備の制約や物流上の課題が多い途上国において、当初の計画通りに開発を進めるという「コミットメントの遵守」を貫いたことです。

BSEZの「ワンストップサービス」はどのように役立ちましたか?

バングラデシュでは、適切な事業運営・建設を確保するためのさまざまな許認可手続きが存在します。プロセスが複雑なため、取得に時間を要する場合もありますが、BSEZのワンストップサービスはその課題解消に大きく貢献しました。通常業務はもちろん、特別な対応が必要な場面でも、BSEZのチームが常に寄り添い、迅速にサポートしてくれました。

 

現在の操業状況と今後の展望を教えてください。

当工場は35エーカー(約135,000平方メートル)の敷地を有し、現在の従業員数は約1,000名。成長戦略に沿って着実に拡大しており、フル稼働時には約5,000名の雇用を見込んでいます。

家電市場としてのバングラデシュは、すべての製品カテゴリにおいて普及率がまだ低く、大きな成長余地があります。また、従業員のオーナーシップ意識の高さは、他国では得難いものがあります。

製造面では、R&Dを通じた付加価値の高い製品の製造を行い、冷蔵庫や金属部品・プラスティック部品に至るまで、原材料から製造する垂直統合型の生産体制を構築しています。これは、バングラデシュにおけるサプライヤー開発がまだ発展途上であることへの対応策であると同時に、今後の同国の製造業の成長ポテンシャルを示すものでもあります。

 

テーマ3:バングラデシュ進出を検討する企業へのメッセージ

どのような企業がバングラデシュ進出に向いていると思いますか?

まず、自動車・二輪車のような裾野の広い製造業者にとって、バングラデシュは大きなポテンシャルを持つ市場です。進出形態は合弁・M&A・グリーンフィールドのいずれも考えられ、各社の戦略に応じて選択すべきでしょう。

部品サプライヤーにとっても非常に有望です。労働集約型の部品製造においては、地理的にも、コスト面でも優位性があり、原材料から完成品に至る製造プロセスに於いて生産コスト削減の大きな機会があると思います。自社で内製化するだけでなく、当社が内装部品で利用している様に、質の高い地場サプライヤーとの協業も可能です。

これからバングラデシュ進出を検討し始める企業に、まず何をすべきか教えてください。

BSEZへのコンタクトが、最初の一手として最適だと考えます。インフラはすでに整備済みであり、スピーディな進出が求められる企業にとって特に有効な選択肢です。

あわせて、BIDA(バングラデシュ投資開発庁)とBEZA(バングラデシュ経済特区庁)への接触も欠かせません。現地視察では、インフラ詳細の確認やデューデリジェンス資料の精査を行うことをお勧めします。

また、進出にあたっては、生産能力・設備投資のみならず、資本注入・外部借入・グループ間融資を含む5年以上の財務計画を綿密に策定することが不可欠です。法人形態の選択や、外貨資本の持ち込みルールについても、事前に十分な調査が必要です。

BSEZはそうした準備の出発点として、最適なパートナーとなり得るでしょう。